確率から考える土地枚数とマナカーブとマナベース

この記事では確率を考えながら土地の枚数検討やデッキ構築ができないか考察していきます。

マジック:ザ・ギャザリングは土地という特殊なシステムのあるゲームです。土地の枚数というのは非常に重要な要素になります。そこを確率の面から解き明かしていきたと思います。ここではスタンダード等における60枚デッキの場合を考えていきます。

 

初手キープ率が高い土地枚数は?

初手に来る土地枚数の確率を考えたことはあるでしょうか?

計算式は比較的簡単で「1-{(x-z)Cy/xCy}」、x=デッキ枚数、y=引く枚数、z=欲しいカードの枚数で計算することができます。興味のある方は是非計算してみてください。

 

 

計算した結果、デッキ60枚のうち土地が25枚の場合は上記の図のような確率になっています。

土地が手札に少ない場合、具体的には1枚以下の場合はマリガンです。土地0枚、1枚の場合は2ターン目、3ターン目のアクションをできることが保証されていないためマリガンすることになる確率が高いでしょう。

マナスクリューを防ぐためには、デッキに土地を入れれば入れるほどよく、土地を2枚以上引く確率が高くなるのでマリガン率は下がると考えることでしょう。

しかしながら、実際のキープ基準を考えると土地が多すぎる場合、例えば5枚、6枚、7枚と初手で引いてしまった場合もマリガンする可能性は高いです。土地5枚、6枚、7枚の場合は唱えることができる呪文の数が足りないことになるためマリガンすることになります。

 

実際のキープ基準にできる確率の高い、初手に来る土地の枚数が2枚以上4枚以下になる場合の確率を考えてみましょう。

初手で土地が2枚、3枚、4枚のときの確率を合計して、おおよそ78%の確率でキープできることが上図から分かると思います。

 

上記のような手順をデッキに入れる土地の枚数毎に繰り返してグラフ化したものが下の図になります。

 

 

まず、青のグラフは初手において2枚以上土地を引く確率です。デッキに入れる土地枚数が増えるほど2枚以上引く確率が高くなっていることが分かると思います。これはグラフ化しなくてもある程度予測は付くと思います。

赤のグラフは初手において2枚以上4枚以下の土地を引く確率です。ある枚数をピークに引く確率が下がっていくことが分かります。これは、デッキに入れる土地の枚数が増えるにつれて初手の土地5枚、6枚、7枚の場合が増えることが原因です。このグラフから土地が25枚の時が頂点になっていて、2枚以上4枚以下の土地を引く確率が高いことが分かりました。これは最もキープできる確率が高くなる土地枚数が25枚と言い換えることもできます。

土地をたくさん入れればマリガン率が下がるように思えますが、ここには落とし穴があることが分かりました。

 

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3マナのカードを安定してプレイするためには

現在のスタンダード環境では《鏡割りの寓話》を始めとした3マナ域のカードをプレイすることは非常に重要です。2マナのカードと3マナのカードでは明らかにカードパワーに差があります。土地が2枚でストップすることはゲームにとって致命的です。ということで、3ターン目に3枚目の土地をセットできる確率を見ていきましょう。

 

 

土地枚数と土地を3枚以上引く確率を表したグラフが上図になります。先手3ターン目でドローを含めて9枚のカードを見た場合という条件になっています。

土地を入れるほど土地を引く確率の上昇幅は緩やかになっていきます。ここである程度許容できる確率、妥協点を80%とおくと、土地枚数が25枚以上のときに80%以上の確率で土地の3枚目を引くことができるようになることが分かります。

60枚デッキにおいて土地枚数25枚というのはひとつの基準にできそうです。

 

具体例としてミッドレンジのマナカーブを考える

キープ率の高い土地枚数、および、3マナのカードを安定してプレイできる土地の枚数が25枚ということが上記から分かりました。そこから、逆算して土地25枚のミッドレンジのデッキを考えていきます。

現在のマジック:ザ・ギャザリングにおけるスタンダードでは2,3ターン目に何もプレイせずにパスするような、能動的アクションが無いのはかなりリスキーなプレイ、ゲームプランになります。2,3ターン目はパーマネントカードを戦場に出したいターンです。そこで、2,3マナのカードに重点を置いて考えてみます。プレイできる基準として確立80%をひとつの指標として考えます。

 

 

上図は特定のカードをある枚数いれたときにそのターンで引けている確率の表になります。この表からマナカーブ通りに呪文を唱えることができる枚数をピックアップすると下記のようになります。

  • 2ターン目に2マナの呪文を82%の確率で引くには2マナの呪文が11枚必要
  • 3ターン目に3マナの呪文を83%の確率で引くには3マナの呪文が10枚必要
  • 4ターン目に4マナの呪文を83%の確率で引くには4マナの呪文が9枚必要
  • 5ターン目に5マナの呪文を82%の確率で引くには5マナの呪文が8枚必要

これをグラフにしてみると下図のようになります。

 

 

4,5ターン目に4,5マナを安定して唱えるにはかなりの枚数をデッキに投入する必要がありますが、4ターン目以降はダブルアクションすることもあるので、必ずしも4,5マナのカードを引く必要はないと考えます。なので、4ターン目は2マナのダブルアクションか4マナをプレイすることが安定して80%以上できればよさそうです。

次は2マナと4マナのカードの投入枚数を確立の面から探っていきます。2マナのダブルアクションと4マナのプレイを確率の面から検討していきます。

「どちらも起こらない確率」を100%から引くことで「どちらかが起こる確率」を求めることができます。x=2マナのダブルアクション、y=4マナのプレイ、z=どちらかが起こる確率とすると「z=1-(1-x)(1-y)」となります。

今回は簡略化のためxとyが同程度の確率で起こる場合を考えてみると「z=1-(1-x)^2」となります。変形して、x=1-√(1-z)となります。「どちらかが起こる確率」の妥協点を確率80%とするとx=55%となります。

2ターン目に2マナのカードをプレイしつつ、4ターン目に2マナダブルアクションできる確率は2マナのカード17枚のとき59%です。4マナのカード4枚のとき4ターン目にプレイできる確率は53%です。この枚数のとき、これら2つのパターンのうちどちらがが成り立つのは81%となります。

ここで一度マナカーブを確認しておきます。

 

 

この時点で平均マナコストは2.6でやや低カロリーとなっています。最適な平均マナコストはFRANK KARSTEN氏の記事に記述があります。

 

出典:channelfireball

 

実績を残したデッキのデータから平均マナコストをまとめると「Lands=3.14*(avg CMC)+16.0」になるとされています。

今回検討している土地枚数25枚から逆算すると平均マナコストは2.9を目指すのがよさそうです。

ここで、残りの4枚は平均マナコストを2.9に近づけるように、高マナ域の5マナのカードを4枚採用するとちょうど平均マナコストが2.9となります。

 

 

理論上、最適なマナカーブは2マナは17枚、3マナは10枚、4マナは3枚、5マナは4枚となりました。あくまで目安なので採用するカードの特性に応じてバランス調整は必要になります。

 

マナベースを考える

日本で一番有名なマナベースの求め方は晴れる屋メディアの超簡単にマナベース計算できちゃう早見表を作ってみた」であると思います。早見表の使い方は元の記事を参考にして頂ければと思います。

こちらは妥協点の決め方が「ミクロ経済学における無差別曲線の理論」となっていますが、これはgoogleで調べても私にはよく分かりませんでした。「早見表」の検証のため必要な枚数の確率を計算してみると下記のようになりました。

 

 

()内の数字がそのマナ枚数における揃えることができる確率になっています。1枚における枚数の1ターン目、2ターン目はその他と比較すると高い確率となっています。「ミクロ経済学における無差別曲線の理論」に基づくと妥協点が分かるようなのですが、確率から見てみると直観では良く分からない状態となっています。加えて80%以下になっている箇所が多くやや不安定な早見表になっているという印象を受けました。

次は恐らく世界で一番有名なFRANK KARSTEN氏のマナベースの記事から必要枚数を表にしたものを紹介しておきます。これはマリガンも考慮した数字となっています。(FRANK KARSTEN氏はゲーム理論と確率演算の研究で博士号を取得しているそうなので、なげやりですが一番正しい表になっていそうです。)

 

 

体感的にもFRANK KARSTEN氏の必要枚数表がよさそうというのが筆者の感想です。「超簡単にマナベース計算できちゃう早見表を作ってみた」と比較するとやや必要枚数は多くなっています。

 

「ジャパンオープン2022」優勝デッキと比較してみる

ここまで色々と検討してきましたが、本当にあっているのか?という疑問があると思います。そこで、直近の大型大会、687名が参加した「ジャパンオープン2022」で優勝したのが「エスパーミッドレンジ」でしたので、実際にミッドレンジ同士ということで比較してみたいと思います。

 

出典:mtgmelee

 

メインデッキは上図のようなリストになっています。次に各カードの枚数を比較してみましょう。

 

 

上にここまでの「検討結果」と「JapanOpen#1のエスパーミッドレンジ」とのマナカーブの比較表を作りました。2,3,4マナ域については±1枚の範囲に収まっており、がっちり合致していることが分かりました。「JapanOpen#1のエスパーミッドレンジ」を「検討結果」と比較すると2マナのパーマネント数が若干少なく感じますが、4,5マナ域の自由枠がしっかりパーマネントになっているので、盤面で有利を取れるようになっていると考察できます。

続いて、マナベースが妥当かどうか見ていきましょう。マナベースは3色を出す必要があり、下記のような条件になります。

  • 白マナは2ターン目にシングルシンボル、および、4ターン目ダブルシンボル
  • 青マナは2ターン目にシングルシンボル
  • 黒マナは2ターン目にシングルシンボル

これを早見表に当てはめると、白マナ:16枚、青マナ13枚、黒マナ13枚が必要になります。

対してデッキリストのマナベースは白マナ:18枚、青マナ15枚、黒マナ16枚となっており十分強固なマナベースになっていることが分かりました。現スタンダードの環境においては3色出る土地があるので安定して3色のデッキを組むことができそうです。

 

まとめ

今回の記事では確率を基にしてデッキを作ることをテーマに大きく3点を紹介しました。

  • キープ率が最も高い土地枚数は25枚
  • 土地枚数25枚のミッドレンジで最適なマナカーブは2マナは17枚、3マナは10枚、4マナは3枚、5マナは4枚
  • マナベースはFRANK KARSTEN氏の早見表を利用する

この記事でみなさんに新しい視点を提供できていれば嬉しいです。是非みなさんもこの記事を参考にデッキを構築してみてください。

ここまでお読み頂きありがとうございました。様々な参考文献をもとに再構築したような記事になりましたので、是非参考文献にも目を通してください。

 

参考文献

  1. カードゲーマーのための確率入門:Noriyuki Mori 氏
  2. トライオームはマナベースの万能薬か:Noriyuki Mori 氏
  3. Mtg考察:確率と期待値でデッキを組む:ごらく 氏
  4. 基本を深堀してみるリミテッド入門 Part.1:u-per-ru-per 氏
  5. 超簡単にマナベース計算できちゃう早見表を作ってみた:富田 峻太郎 氏
  6. How Many Sources Do You Need to Consistently Cast Your Spells? A 2022 Update:FRANK KARSTEN 氏
  7. How Many Lands Do You Need to Consistently Hit Your Land Drops?:FRANK KARSTEN 氏

 

 

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